/** WEB数式 MathJax 2023.4.20 M.Tanaka**/ 同期する世界: 同期する世界 第2章 集団同期

2023年4月12日水曜日

同期する世界 第2章 集団同期

ミレニアム・ブリッジの騒動(p.70)

つり橋を渡る歩行者たちの足並みがひとりでに揃い、ロンドンのテムズ川に架かるミレニアム・ブリッジが大きく横揺れして大変な騒ぎになった1)

歩行の同期はなぜ起きたか(p.73)

ばらばらなはずの人々の歩行がひとりでに揃って大きな力を生んだメカニズムが問題-リズムの集合体が一つの大きなリズムとしてふるまう可能性。このような現象は、プレニアム・ブリッジよりも以前に日本でも起きていた2)

同期現象の面白さは、モノを選ばず、リズミックにふるまうものなら何にでも出現するということにある。

ひとりでに揃う拍手(p.76)

拍手も歩行と同様の繰り返しの動作で、拍子を合わせるつもりでないのに。コンサートホールで聴衆の拍手がひとりでに揃うという現象がある3)

静かな環境の下での一個人の拍手には、遅いモード(1秒間に2回で、バラツキの幅は周期の平均値に比べて小さい)と速いモード(1秒間に4回で、規則性は遅いモードに劣り、バラツキが大きい)がある。

自然周期のバラツキが小さければ振動子は互いに同期しやすく、大きければ同期しにくいので、遅いモードでは聴衆の拍手が同期すると期待できる。実際のコンサートホールでのでデータでは、最初はまばらだった拍手が10秒間ほど続いた後、次第に揃った拍手が10秒~20秒続く(遅いモード)とまた乱れてくる(速いモード)。このように同期と非同期が繰り返される現象が報告されている(参考論文へ)。

ホタルの見事な光のコーラス(p.80)

ホタルの発光は、仲間と交信するシグナル。明滅しているホタルは一つの振動子とみることができ、ホタルの大集団は明滅を同期させ、一つの巨大な光のリズムと化す。

バックが目撃したもの(p.82)

ホタルの発光の研究の第一人者である米国の動物学者ジョン・バックがタイのチャオプラヤー川でオスのアジアボタルが互いに発行のタイミングを調整し合うことで見事なユニゾンを達成しているのを見た4)

アジアボタルの集団は0.56秒間隔(誤差±0.006秒)で発光を繰り返し、1回の発光は数十分の1秒くらいしか持続しない。

ホタルは何のために同期するのか(p.86)

米国のグレート・スモーキー山脈国立公園のホタルは、二種類の基本的リズムからなる複合的なリズムで発光する。すなわち、0.5秒間隔のフラッシュを6回で3秒間続いた後、7秒間沈黙するというパターンを繰り返す。このように、0.5秒という短い周期と10秒の長い周期を含む複合的なリズムで発光し、集団を形成すると、長い周期と短い周期の両方で同期する。

米国コネティカット大学のアンドリュー・モイセフとジョージア南大学のジョナサン・コープランドは、一匹のメスボタルを本物のオスボタルの発光パターンにそっくりの光を出す8個のLED発光体で取り囲み、メスボタルの反応を観測する実験を行った5)。その結果、メスは疑似的オスボタルたちが同期して発光する場合に限ってそれに応答し、同期がほんの少し乱れてもそれに敏感に反応して応答の度合いは低下し、ばらばらの発光に対してはほとんど関心を示さないということが観測された。つまり、メスは、何故かは不明だが、個々のオスボタルではなく集団全体としての発光パターンを認識している。

モノの違いを超えるリズムと同期(p.89)

リズムを担っているモノとして、それが何であるかに関して自然はいたって無頓着で、リズム(ミクロリズム)が多数寄り集まりさえすれば、自然はそれを一つの大きなリズム(マクロリズム)にまとめ上げようとする。

集団リズムを幾何学的にイメージする(p.90)

円周上を走り回る粒子たちによってリズムと同期を記述するやり方を位相モデルと呼ぶ。円周上を走る二個の粒子が互いに影響を及ぼし合う場合は、相手を一定範囲内に引きとめ、一体となって回転する。これが位相モデルによる同期の基本的イメージである。そして、リズムの大集団を表すには、単に円周上を回転する粒子の数を増やすだけである。その場合、すべての粒子が一点に集中することはないが、互いに引き合う力のおかげで相互の位置関係を保ったまま一体となって回転することになる。

集団リズムが存在するか否かについては、粒子の分布が全くランダムで円周上にほぼ一様に広がっているなら、集団全体としてはどんなリズムも示していないとみなすことができるが、粒子が寄り集まっていて、その塊が一つの大きな粒子のように回転しているなら、それは集団リズムが存在する状況に対応している。

粒子集団の重心の運動が集団の運動を代表しているので、重心と原点の距離Rが集団リズムの強さを表現している。円の半径を1とすると、Rは0~1の値を取る。


「平均場」という考え方(p.94)

個々のリズムが非常に多数のリズムの影響を平等に受けている場合は、一つのリズムが多数のリズムの影響下にあると同時に、一つのリズムが多数のリズムに影響をあたえている。こうした状況を理想化すると、各構成員が他のすべての構成員と同じ強さで結合するというモデルが考えられ、これを「平均場モデル」と呼ぶ。

平均場のモデルが適用できる集団では、平均場は個々の成員の動きを支配すると同時に、逆に成員の動きの全体が平均場を作り出しているという「個と場の相互フィードバック」が実現されている。このシステムでは、集団全体を巻き込む突然の秩序形成や秩序崩壊がしばしば起こる(転移現象)。

転移現象としての集団同期(p.98)

リズム間の結合力がある限界を超えると集団全体が歩調を揃えて突然大きなリズムを示し始める。その背景には「個と場の相互フィードバック」があり、そこにはプラスのフィードバックとマイナスのフィードバックが含まれている。プラスのフィードバックとは、場が揺れはじめると、そのこと自体がますます揺れを強めるように働く性質のことで、マイナスのフィードバックとは、メンバー間の結合力が弱いと、もともと違った自然のペースを持っていた個々の振動子がばらつきはじめ、場の揺れが静まっていく性質のこと。このように相反するフィードバック機構を内在させたシステムには、プラス傾向とマイナス傾向の相対的な優位性が逆転する臨界点が存在する。集団同期によって静かな集団状態から振動する集団状態に突如変化するこのような転移現象を「同期相転移」と呼ぶ。

理論生物学者のアーサー・T・ウィンフリは、自然現象における集団リズムの重要性を初めて主張した人で、集団リズムの発生を一種の相転移として捉え、位相モデルと平均場モデルを用いて集団リズムが生じるメカニズムを理論的に解明しようとして「作用力」と「感受性」の相乗効果を仮定した6)が、集団同期転移が存在することを数学的に証明するにはこのモデルでは不十分であった。

ウィンフリ論文の衝撃(p.102)

ウィンフリモデルの修正版として、振動子間の位相差の正弦関数を相互作用の形とする「蔵本モデル」を提案した(下記)。

\begin{align} \displaystyle \frac{ \mathrm{d} \theta_{i}}{ \mathrm{d} t} = \omega_{i} - \frac{K}{N} \sum^{N}_{j=1}\sin (\theta_{i} - \theta_{j}), \, i=1, 2, ..., N \end{align}

ここで、\(N\)は集団に含まれる振動子の総数、\(\theta_{i}\)は\(i\)番目の位相、\(\omega_{i}\)はこの振動子の自然周波数を表し、その値は正規分布からランダムに抽出される。\(K\)は振動子間の結合強度を表す。このモデルを使えば「個と場の相互フィードバック」の考え方を単純な数式で表すことができ、同期相転移の存在を理論的に示すことができる(下図)。

蔵本モデルのようにある単純化された理論モデルを検討することには次の2つのメリットがある。一つは、「こんな新しい現象がありうるのではないか」ということが示唆されれば、より現実に沿った複雑なモデルを通じて、この可能性を本格的に探ることができる。もう一つは、このようなモデルは一見全く違う物理的対象や状況に対して同じ形を持っているので、それを解析することで、今までそれそれ独立に研究されていた対象の間に思いがけない共通性が見いだされることがある。

振動子ネットワークとしての電力供給網(p.107)

ホタルの集団やコンサートホールの聴衆は、個々のメンバーがすべてと平等につながっているが、メンバーが複雑なつながりかたでネットワークを構成しているリズム集団があり、その一例が電力供給のネットワークである。

電力供給システムは、発電所、送電線、電力需要者(工場や家庭など)などが互いにつながった複雑で膨大なネットワークで、交流電流というリズム(その周波数は東日本では50Hz、西日本では60Hz)が行き交っている。

交流の周波数は同じネットワーク内ではどこでも同じでなければならず、完全に同期している必要がある。さもなければ、最悪の場合には大停電に至ることもある。

電力ネットワークは同期を求めている(p.111)

この節の話は分かりにくい。それは複雑な話を数式を用いず文章だけで説明しようとしているためだ。そこで、文献7)と8)を参考にしながら、この内容を数式を交えながら補ってみる。

電力系統に内在する\(N\)台の発電機のうち\(i\)番目の発電機の動揺方程式(同期回転機の運動方程式)は次式で表される7-8)

\begin{align} M_{i}\displaystyle \frac{ \mathrm{d^{2}} \theta_{i}}{ \mathrm{d} t^{2}} = P_{\mathrm{m},i} - E_{i}^{2}G_{ii} -D_{i}\frac{ \mathrm{d} \theta_{i}}{ \mathrm{d} t}-P_{\mathrm{e},i}, \, i\in\{1,...,N\} \end{align}

ここで、\(\theta_{i}\)は50Hzまたは60Hzの回転座標系からみた発電機の位相、\(M_{i}>0\)は発電機の慣性定数(発電機の回転を維持しようとする働きの係数)、\(P_{\mathrm{m},i}>0\)は機械的入力 (mechanical power input)、\(E_{i}>0\)は内部電圧、\(G_{ii}\)は発電機\(i\)のコンダクタンス(\(E_{i}^{2}G_{ii}\)は内部損失を表す)、\(D_{i}>0\)はダンピング定数、そして\(P_{\mathrm{e},i}\)は電気的出力 (active power output)を表す。

次に、発電機\(i,j\)間の縮約アドミタンスを\(Y_{ij}\)とすると、電気的出力は次のように表される。

\begin{align} \displaystyle P_{\mathrm{e},i}=-\sum_{j=1}^{N}E_{i}E_{j}\{G_{ij}\cos(\theta_{i}-\theta_{j})+B_{ij}\sin(\theta_{i}-\theta_{j})\} \end{align}

ここで、\(G_{ij},B_{ij}\)は、それぞれ発電機\(i,j\)間の相互コンダクタンスとサセプタンスである(すなわち\(Y_{ij}=G_{ij}+jB_{ij}\))。 これを動揺方程式に代入すると次式が得られる。

\begin{align} \displaystyle M_{i}\frac{ \mathrm{d^{2}} \theta_{i}}{ \mathrm{d} t^{2}} = -D_{i}\frac{ \mathrm{d} \theta_{i}}{ \mathrm{d} t}+\omega_{i}-\sum_{j=1}^{N}P_{ij}\sin(\theta_{i}-\theta_{j}+\varphi_{ij}) \end{align}

ここで、\(\omega_{i}:= P_{\mathrm{m},i}-E_{i}^{2}G_{ii}\)(有効機械的入力)は\(i\)番目の発電機の自然周波数で、\(P_{ij}:= E_{i}E_{j}|Y_{ij}|\)は発電機\(i,j\)間で流れる最大電力で、\(\varphi_{ij}:=\arctan(G_{ij}/B_{ij})\)は相互コンダクタンス\(G_{ij}\)によるエネルギー損失を表す。 慣性定数\(M_{i}\)がダンピング定数\(D_{i}\)に比べて非常に小さい場合(\(M_{i} \ll D_{i}\))、上式は次のようになる。

\begin{align} \displaystyle D_{i}\frac{ \mathrm{d} \theta_{i}}{ \mathrm{d} t} = \omega_{i}-\sum_{j=1}^{N}P_{ij}\sin(\theta_{i}-\theta_{j}+\varphi_{ij}) \end{align}

これは、「非均一蔵本モデル (non-uniform Kuramoto model)」と呼ばれ、「蔵本モデル」を以下の3点で拡張したモデルになっている。

  1. 角速度\(\dot{\theta_{i}}\)が\(D_{i}\)倍されている
  2. 相互作用の係数が\(P_{ij}\)になっており、結合が非一様で対称になっている
  3. \(\varphi_{ij}\)が位相差に加わっている

このように、電力ネットワークは蔵本モデルの拡張版である非均一蔵本モデルに帰着することができる。したがって、非均一蔵本モデルを利用して電力ネットワークシステムの同期現象を解析できる。

送電網のリスク(p.114)

人間社会を支える最大のインフラである電力供給網の根底に同期現象が潜んでいる。

REFERENCE

  1. mdepablo: Millennium Bridge. Youtube, https://www.youtube.com/watch?v=eAXVa__XWZ8
  2. Yozo Fujino et al.: Synchronization of human walking observed during lateral vibration of a congested pedestrian bridge. Earthquake engineering & structural dynamics, 22(9), pp.741-758, 1993.
  3. Z Neda et al.: The sound of many hands clapping. Nature, 403(6772), pp.849-50, 2000.
  4. John Buck and Elisabeth Buck: Mechanism of rhythmic synchronous flashing of fireflies. Science,159(3821), pp.1319-1327, 1968.
  5. Andrew Moiseff 1, Jonathan Copeland: Firefly Synchrony: A Behavioral Strategy to Minimize Visual Clutter. Science, 329(5988), p.181, 2010.
  6. A T Winfree: Biological rhythms and the behavior of populations of coupled oscillators. Journal of Theoretical Biology, 16(1), pp.15-42, 1967.
  7. 藤田 佑樹, 滑川 徹: 非均一蔵本モデルを用いた送電損失を含む電力ネットワークの同期条件. 制御理論シンポジウム資料, 40, pp.21-24, 2011.
  8. F. Dorfler, F. Bullo: Synchronization and Transient Stability in Power Networks and Non-Uniform Kuramoto Oscillators. arXiv:0910.5673, 2009, https://arxiv.org/abs/0910.5673.

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